エムエム建材は、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進の一環として、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)に関する理解の促進に取り組んでいます。本記事では、2022年12月に行なわれた視覚障害者をめぐる現状と課題に関する勉強会の様子をお伝えします。講師として、公益財団法人日本盲導犬協会の職員のかたがたにご協力をいただきました。
※掲載している内容は2023年1月時点の情報です。
- ・公益財団法人日本盲導犬協会 渉外部 リーダー/松尾 篤 様
- ・同 広報・コミュニケーション部 普及推進担当/池田 義教 様
- ・同 視覚障害サポート部/郷 明博 様
<プロフィール>
お話を伺ったみなさま(写真左から)
視覚障害者をめぐる誤解
エムエム建材参加者(以下、M):
現在、視覚障害者はどれくらいいらっしゃるのでしょうか?
松尾様(以下、松尾):
日本国内には視覚障害で身体障害者手帳を保有している人が約31万人いますが、何らかの原因で見えづらさを感じている「ロービジョン」と呼ばれる状態のかたも含めると、約164万人(2007年、日本眼科医会 試算)いるといわれています。これは人口の約1.3%にあたり、高齢化に比例して2030年には約2.0%近くまで増加するといわれています。「ロービジョン」のかたが白杖や盲導犬を利用されているケースも少なくありません。
M:
白杖を持っていたり、盲導犬を連れていたりしても、必ずしも全盲ではないというのは意外でした。その部分で、何か誤解を受けるような場面はあるのでしょうか?
郷様(以下、郷):
私自身は全盲ですが、ロービジョンの方でも白杖をお持ちということは、視野が狭い、明暗差しか感じられないといった何らかの障害を感じているということです。晴眼者(視覚に問題のない人)に比べて生活上の困難があることに変わりはないので、可能な範囲でサポートしていただければと思います。
M:
サポートするうえで、なにか気をつけるべきことはありますか?
郷:
立ち止まって周囲を見回している、同じ場所を行ったり来たりしているといった状況は、困っているサインです。視覚障害者は周囲の状況の把握が難しく、助けを求められる相手が近くにいるのかわからないので、まずは気軽に声を掛けていただけると助かります。具体的なシーンとしては、最近ですと店舗の入口などにある消毒スプレーの位置がわかりにくい、飲食店で普及してきたオーダー用のタブレット端末の操作が難しい、といった不便を感じることが多いです。
M:
会話をする際の注意点はありますか?
郷:
「こちら」や「あちら」では、方向や距離がわからないので、「前に何センチ」といった具体的な説明がありがたいです。それから、急に身体にふれられると驚いてしまうので、ひと声かけて下さい。また、白杖を持っている場合は、その白杖に触れないようにしてください。白杖は、視覚障害者が周囲の状況を把握する大切なセンサーのようなもの。思うように動かせなくなると、非常に不安を感じます。
M:
ほかになにか誤解を受けていると感じる部分はありますか?
郷:
盲導犬を連れている視覚障害者をサポートしようとして、まれに盲導犬に話しかけるかたがいらっしゃいます。盲導犬はカーナビのように目的地まで自動的に連れて行ってくれる存在ではなく、使用者が頭の中に描いた地図をもとに指示する方向に進みながら、障害物や段差、曲がり角などの情報を教えています。話しかけられると意識がほかに向いてしまい、盲導犬の作業ができなくなって、使用者の危険につながることがあります。話しかけていただく際は、視覚障害者本人に対してお願いします。
M:
私たちも視覚障害者の方々に対して「弱い、かわいそう」といった勝手なイメージを抱き、無意識に壁をつくってしまっている部分があったかもしれません。
郷:
そのほか、視覚障害者の側でも健常者との上下関係をつくってしまい、他人と話すことに臆病になったり、独りよがりになったりするケースも少なくありません。障害者の自立という点からも、コミュニケーション能力を高めておく必要はあると思います。
コロナ禍で声がけが減っている状況もありますが、まずはお互い気軽にコミュニケーションを取ることから始めるとよいでしょう。私自身、目が見えないところ以外はまったく普通のおじさんなので、お気遣いは無用です(笑)。
盲導犬をめぐる現状
M:
盲導犬は、現在どの程度普及しているのでしょうか?
池田様(以下、池田):
日本国内には、848頭(2022年3月31日時点)の盲導犬が実働しております。ライフスタイルなどの違いもあり、すべての視覚障害者が盲導犬を希望しているわけではありませんが、希望者に対して盲導犬の数は足りていないのが現状です。盲導犬と生活をすることでQOL(生活の質)が向上する視覚障害者は、まだまだいらっしゃると思います。
M:
普及が進まない理由はどこにあるのでしょう?
池田:
盲導犬の育成には、候補犬の誕生から約2年という年月がかかります。また、訓練をした犬のすべてが盲導犬になるのではなく、性格や体質といった適性によって、盲導犬になるのは約3~4割です。当協会も年間30~40頭の盲導犬を輩出しておりますが、盲導犬の引退後に次の盲導犬と生活をするかたがいらっしゃるので、新規(1頭目)の方には少しずつお届けしている 状況です。
さらに「身体障害者補助犬法」という法律で、社会へのアクセス権が保障されておりますが、この法律の施行後20年が経過した現在も理解は進んでおらず、飲食店や宿泊施設、医療機関などでの受け入れ拒否もなくならない現状があります。
M:
盲導犬を受け入れる際の注意点はありますか?
池田:
基本的に、他のかたと同様に受け入れてください。盲導犬は、使用者の近くの足元などで落ち着いて待機することができます。通路が狭い場合などの周りの状況は、使用者ご本人にご説明をお願いします。盲導犬の衛生管理や行動管理も使用者の義務となっておりますので、気になることがあれば、そちらも使用者ご本人にお聞きください。
M:
犬の排泄はどうされるのですか?
池田:
約4時間に1度程度、使用者がそれぞれの盲導犬の排泄リズムをもとに排泄させています。使用者が排泄を促すコール(声がけ)をすることで排泄できるよう、訓練しております。
施設や公共交通機関を利用する前など、適切なタイミングで排泄をさせておりますので、粗相をするようなことはほとんどありません。排泄ベルトを使用することで、周りを汚さずにビニール袋に排泄物を集めることもできます。
視覚障害者のために企業ができること
M:
視覚障害者が会社で働く際、課題となることはありますか?
郷:
先ほどの声がけにも関わりますが、職場など知り合いが多い環境でも「誰が話しかけてくれているのか」がすぐにわからないケースがあるので、最初に「こんにちは、◯◯です」などと名前をいっていただけると助かります。ちなみに、最近増えたフリーアドレスは少し苦手です。私たちは同じルートを反復することで環境を記憶する部分がありますので、視覚障害者については固定席にしていただけると助かります。
M:
企業に対して、理解してほしいことはありますか?
郷:
最近は、スマートフォンの普及で読み上げ機能を使えるようになったことで、いろいろな作業をスムーズにできるようになりました。Teamsなどもモバイルアプリを併用することで、問題なく使えています。
M:
私たちは鉄の総合商社として、まちづくりに関わる事業も少なからずあります。ビルや公共インフラの部分で何か課題はありますか?
郷:
視覚障害者にとって点字ブロックの存在は非常に大切ですが、自治体によって普及レベルに差があります。また、これは生活者側の問題ですが、点字ブロックの上に駐車・駐輪されることで視覚障害者がぶつかったり、迂回したりするケースもあります。
M:
確かに点字ブロックの重要性は、一般生活者には浸透していないかもしれません。
郷:
この問題が難しいのは、生活者それぞれの事情によって異なる視点があることです。例えば、近年は周囲の環境と調和させるために歩道と同系の色や材質の点字ブロックが増えましたが、視覚障害者の多くを占める「ロービジョン」の方にとっては、識別が困難になるという問題が生まれます。また、高齢者や歩行が困難なかたにとってはつまずいたり、滑ったりといったトラブルも指摘されています。
M:
ダイバーシティ&インクルージョンという視点からも難しい問題ですね。お互いの立場を理解し合い、みなで議論することが大切かもしれません。
松尾:
一企業としてできることには限りがあるかもしれないですが、私たち自身も含め、まずは社会全体に視覚障害者をはじめとするマイノリティの状況を理解していただく啓発活動が重要でしょう。
M:
そのとおりですね。社内教育はもちろんのこと、関わりのある地域や取引先なども巻き込んで、体験会やセミナーなどを開催できればと思います。
松尾:
また、私たちのような障害者支援を目的とした団体の多くは寄付金で成り立っており、資金面に課題があります。そうした面からも、社会全体で理解が進むことを願っています。
M:
エムエム建材では創業時より日本盲導犬協会様へ定期的な募金を行うなど協力関係を継続していますが、今後もよりいっそう注力していきたいと思います。
約2時間に及ぶ本研修は、視覚障害者に対する誤解や課題に関するさまざまな“気づき”を得た貴重な機会となりました。当社では今後も研修や関連イベントの開催を通じてダイバーシティ&インクルージョンの推進と、その一環であるアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)に関する理解を促進し、社会的価値の創出に取り組んでいきます。